〈転機のサウジ〉(下)イラン断交、米とも距離 中東覇権へ強硬外交

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 日本経済新聞  2016/06/23(月)

 5月下旬、イランの政府機関のサイトの画像が同国に侵攻した宿敵サダム・フセイン元イラク大統領に改ざんされた。交流サイトで犯行を自慢したのは自称サウジアラビア人ハッカー。「イランのハッカーはここにいるぞ」。すぐにサウジ当局のサイトが書き換えられた。英BBCは“サイバー戦争勃発”と報じた。

宗派対立が先鋭化

sauzigunzikunren.jpg イスラム教スンニ派の盟主サウジとシーア派の大国イラン。1月にイランのサウジ大使館が群衆に襲撃されたのを機に外交関係を断絶。対立が先鋭化している。不可侵だった巡礼の問題にも波及。イランのイスラム教徒は今年、サウジ内にある聖地へ大巡礼に行けない事態となった。


 戦火を交えたことはない両国だが、事態は不穏だ。サウジ北部の軍事基地に2月中旬、アラブ・イスラム圏の20カ国の兵士や戦車、戦闘機などが集結。1カ月近く合同軍事演習を行った。不参加のイランが他国のシーア派勢力を支援していることを念頭に置いた訓練も行われたようだ。


 周辺国では両国の“代理戦争”が広がる。サウジは隣国イエメンに昨年3月に軍事介入し、イランが支援するシーア派武装組織「フーシ」を攻撃。今年4月に国連主導の和平協議が始まった後も、サウジが空爆をやめていないとフーシ側は批判している。


 シリアでは反体制派武装組織を支援し、資金や武器を提供。イランが支持するシーア派のアサド政権との間で戦闘を繰り広げる。シーア派の影響圏の拡大阻止を狙うが、内戦が泥沼化し、過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭を招いた。


 対米協調と慎重な外交を基軸としてきたサウジ。最近の強硬な政策を差配しているとみられるのが経済政策機関トップとともに国防相を務めるムハンマド副皇太子だ。核問題による経済制裁が解けたイランをけん制するもくろみは同時に、中東に深く関与してきた同盟国の米国との間にすきま風を吹かせている。


「ただ乗り」に反発

 「ただ乗り国家だ」。オバマ大統領は3月、米国の力を利用しながら中東情勢の安定に寄与していないとして米誌上でサウジを批判、米国が核合意に達したイランと共存するよう求めた。「80年にわたる友情と米国を敵と呼ぶイランを同等とみなすのか」。サウジはいら立ちを募らせた。


 米上院で5月、米同時テロの遺族らがサウジ政府に賠償を請求できる「9.11」法案が可決された。サウジのテロ関与を疑う声に、サウジ政府は保有する米国債の売却をちらつかせて警告。オバマ氏は拒否権を発動する見通しだが、相互不信は隠しようがない。

 オバマ氏は17日、訪米した副皇太子をホワイトハウスに迎え入れ、サウジの経済改革構想「ビジョン2030」実現への支援を強調した。関係修復を演出したが、経済的な実利のほかには糸口が乏しいことの裏返しともいえる。


 サウジの軍事費は膨らみ続け、財政を食いつぶす。新たな財源を築く経済改革は国力を増すイランとの覇権争いを見据えてもいる。米国離れをいとわないサウジの新たな国づくりは、中東全体の将来を左右する。


 久門武史、岐部秀光が担当しました。


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