Brexitの衝撃(1)EU終わりの始まりか

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 日本経済新聞  2016/06/29(水)

 米西部時間23日夜。米大統領のバラク・オバマ(54)は世界起業家サミットに出席するため訪れたカリフォルニア州サンフランシスコで、米グーグル最高経営責任者(CEO)のスンダル・ピチャイ(43)らと夕食をとっていた。

kyameron.jpg オバマは欧州連合(EU)の是非を問う英国民投票のキャンペーン中に訪英して盟友の英首相デービッド・キャメロン(49)を援護射撃するなど残留を訴えてきた。EUで最も親密なパートナーである英国のEU離脱は、米国にとって欧州との関係が根底から変わりかねない一大事。それでも会食の予定を入れたのは、「残留」を想定していた表れだ。衝撃的な結果を受け、オバマはキャメロンとの電話協議の調整を命じた。


 日付が24日に変わっていた日本では、首相の安倍晋三(61)が不在の首相官邸で各府省の事務方トップが集まる事務次官会議が開かれていた。官房副長官の萩生田光一(52)、世耕弘成(53)、杉田和博(75)らに各秘書官が「英国がEU離脱」というメモを差し入れると、一瞬の驚きのあと、出席者は一様に渋い表情を浮かべた。会議のテーマは、すでに進みつつあった急激な円高への対応策などに移った。

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 参院選の遊説中の安倍は岩手県内を移動中に一報を受けた。すぐに同行の秘書官らと対応を協議。株価急落など金融市場の動揺を抑えるため、午後1時15分頃に財務相の麻生太郎(75)にメッセージを出させ、夕方に閣僚会議を開くことを決めた。

 「まさか、こうなるとはね」。帰京した安倍は24日夕、周囲に改めて驚いた表情を見せ、こう吐露した。参院選はアベノミクスへの信任が争点。英EU離脱が景気を下押しすれば、逆風は強まる。そんな不安が安倍の脳裏をよぎっていた。


 欧州では、夜が明けるとすぐEU本部に主要機関のトップが集結。委員長のジャンクロード・ユンケル(61)、EU大統領のドナルド・トゥスク(59)、欧州議会の議長マーティン・シュルツ(60)、EU議長国を務めるオランダ首相のマルク・ルッテ(49)ら4人のトップが欧州委員長室のガラスのテーブルを囲み、共同声明の作成に取りかかった。


 「遺憾だが、英国民の判断を尊重したい」。ユンケルが声明を発表すると、報道陣から「これはEUの終わりの始まりか」という容赦ない質問が飛んだ。ユンケルが毅然として「ノーだ」と答えて足早に会見場を去ると、EU職員らから大きな拍手が上がった。

 ユンケルの強気の姿勢は苦境の裏返しだ。フランス、イタリア、スペイン、オランダ――。EU懐疑派は方々で勢いづく。EUの盟主でドイツ首相のアンゲラ・メルケル(61)はベルリンで「今日は欧州統合にとって分水嶺となる日だ」との声明を読み上げた。


 「経済が弱い国とその国民を食わせ、支援するなんて、誰だってしたくないのだ」。この日、旧ソ連・ウズベキスタンの首都タシケントに外遊中だったロシア大統領のウラジミール・プーチン(63)は愛用のダークブルーのスーツとストライプのネクタイ姿で記者団の前に姿を現すと、離脱派の勝因を淡々と解説してみせた。


 ウクライナ問題で欧米と対立するロシアにとって、対ロ強硬派の英国が抜け、EUが弱体化するのは望むところ。だが、離脱はロシアを利するという英首相キャメロンの発言については「全く根拠がない」と語気を強めた。実際、天然ガスなどの主要輸出先である欧州の景気が冷え込めば、ロシアの不況も一段と深刻化しかねない。

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 2013年に国民投票の実施を公約し、自ら残留派を率いて敗れたキャメロンは、最終結果の正式発表を待ち、午前8時すぎに首相官邸前に夫人とともに姿をみせた。英メディアは会見で「新しいリーダーが必要だ」と辞意を表明したキャメロンがその後、官邸内に戻り、側近らとの内輪の席でこう漏らしたと伝えている。「なんで俺が離脱派のためにクソ難しいことをやらなくちゃいけないんだ」

 2度の世界大戦の教訓から生まれた欧州統合の流れは、英国のEU離脱で大きく逆流する。英国、EU、そして世界を海図無き航海に導くブレグジット(Brexit、英国=Britainと離脱=Exitを組み合わせた造語)の衝撃は計り知れない。

(敬称略)


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