Brexitの衝撃(3)「次は我々の番だ」

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 日本経済新聞  2016/06/30(木)

 「英国、欧州連合(EU)から離脱へ」。24日早朝、英メディアが国民投票の大勢判明を速報すると、オランダの極右・自由党の党首ヘルト・ウィルダース(52)はすかさずツイッターに書き込んだ。「次はオランダの番だ」。ブリュッセルとロンドンのエリートだけが得をする欧州統合に英国民は「ノー」を突きつけた。そうウィルダースは解釈してみせる。「そんなEUに未来はない」

EUridatu.jpg 翌25日、パリのエリゼ宮(大統領府)では、極右・国民戦線を率いるマリーヌ・ルペン(47)と仏大統領のフランソワ・オランド(61)が向き合っていた。

 「我々も国民にEUに残りたいかどうか問わねばならない」。与野党の緊急党首会談に臨んだルペンは、こう切り出した。背筋を伸ばし、硬い表情のオランドは首を縦にふらなかったが、ルペンの表情は余裕に満ちあふれていた。会談後、大統領府の中庭で上機嫌で記者団の取材に応じ、「議会でオランド氏の公約をしっかり検証してもらいたい」。鬱積する政府への不満で現政権の支持率は超低空飛行が続く。その裏返しでルペンらには追い風が吹いている。

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 2017年は3月にオランダ議会選、5月にはフランス大統領選が控える。世論調査では両国とも極右が支持を伸ばしている。ナショナリズムに訴え、反EUを掲げて支持を広げてきた極右。英国のEU離脱は、自らの主張が極論ではなく現実的な選択肢だと主張する格好の材料となる。


 欧米メディアや市場関係者の間では「ブレグジット(英国のEU離脱)」に続く「ネクジット(オランダ=ネザーランドの離脱)」や「フレクジット(フランスの離脱)」のドミノ連鎖がささやかれる。


 EUが抱える病は一国主義への回帰を唱える極右だけはない。金融危機後の緊縮財政への反動から生まれた急進左派勢力の台頭も、結束と安定を脅かす。


 総選挙から一夜明けた27日、スペイン首相のマリアーノ・ラホイ(61)はラジオ番組に出演し、こわばった声で「今度こそ、何としても過半数を持つ政権をつくらなければならない」と他党に妥協を訴えた。前夜、マドリード市内で支持者を前に華々しく勝利宣言した喜びは消えていた。


 スペインは昨年12月の総選挙で与党・国民党が過半数を割り、その後半年かけても連立交渉が実らず、政治空白が続いた。今回こそ政治危機に終止符を打つはずだったが、民意は安定を選ばず、国民党は再び過半数を取れなかった。

 既存政党への不満の受け皿として14年に結党した新興政党ポデモスは、わずか2年で長年の二大政党制を打ち破った。26日夜、党首のパブロ・イグレシアス(37)は「結果には満足していない」としながらも、「スペインの将来にはポデモスは必要だ」と大衆の支持の強さに自負をみせた。

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 英国のEU離脱決定直後の25日朝、ギリシャ首相のアレクシス・チプラス(41)は仏大統領のオランドと電話で話し込んでいた。「もっと社会福祉を充実した政策が必要だ」。両者はそんな内容で合意したという。


 反緊縮財政を掲げて首相に駆け上ったチプラスは1年前の7月、金融支援と引き換えに追加緊縮策をのまされた。ドイツを中心とする北部欧州に支配されたEUの横暴は、民衆の不満を高めるだけだ――。その思いは消えず、締め付けをはねのける機をうかがう。

 欧州解体論を振りかざして支持を広げようとする極右。過去の放漫財政のツケを直視せず、EUの財政規律や政策協調を脅かす急進左派。2つの対極にある政治思想が、EUをゆさぶる。


 28日、ブリュッセルで開かれたEU首脳会議。EU本部には、徹夜協議を繰り広げた1年前のギリシャ危機時のような切迫感はなかった。英国との離脱交渉入りを9月以降に先送りすることを承認し、協議は日付が変わる前にあっさり終わった。記者会見場に現れたEU大統領のドナルド・トゥスク(59)は「議場は落ち着いた雰囲気だった」と淡々と語った。


 交渉の遅れは先行き不透明感として政治や経済、金融市場の安定をむしばみ、「反EU」機運の拡大にもつながりかねない。だが、離脱交渉開始の権限を英国が握る以上、EUはそれを待つしかない。半世紀にわたる欧州統合の歴史上、最大の危機を迎えたEUは、未曽有の事態を前に立ちすくんでいる。

(敬称略)


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