Brexitの衝撃(5)次のリーダーを探れ

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 日本経済新聞  2016/07/02(土)

 「次のリーダーが誰になるのか探ってほしい」。英国の欧州連合(EU)離脱が固まった6月24日夜、日立製作所会長の中西宏明(70)は英国の原子力子会社や鉄道子会社の取締役を務めるスティーブン・ゴマソール(68)にメールを打った。ゴマソールは駐日英国大使を務めた元外交官で、英国の政治家や官僚に厚い人脈を持つ。

nakanisihitachhikaityou.jpg 中西と社長の東原敏昭(61)が「離脱に反対」と明快に表明すると、国内外のメディアは驚きをもって受け止めた。英国と大陸間で関税がかかればコスト負担が生じる恐れはあるが、企業が好んで政治に口を挟むはずはない。英首相デービッド・キャメロン(49)に反対の旗振り役を求められ、水面下でゴマソールが動いていた。


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 「政権と距離を縮めないと大型インフラ受注は難しい」。2003年に欧州総代表だった中西は当時の駐日大使、ゴマソールを口説いて翌年、自らの後任に迎えた。ゴマソールは日立本体の執行役専務や取締役も務め人脈を発揮。独電力会社から英原発事業会社を買収する成果につながった。


 15年秋に完成した英北部ニュートン・エイクリフの鉄道車両工場はEU離脱反対をアピールする格好の場となった。9月の開所式にキャメロンと財務相ジョージ・オズボーン(45)が2人で訪問し、日立の投資により730人の雇用を生むと訴えてEUにとどまるメリットを強調した。

 16年に入るとキャメロン政権と日立の二人三脚は加速する。1月8日に外相のフィリップ・ハモンド(60)が来日して中西と会い、EUにとどまることが直接投資を呼ぶと主張。4月1日には東原が英BBCのインタビューで離脱反対を表明した。5月5日に首相の安倍晋三(61)と中西が訪英した際にはキャメロンと合流して鉄道保守拠点を訪れている。


 「最後にもう一度アピールしたい」。6月上旬、キャメロンはニュートン・エイクリフ工場を再度訪れる意向を固め、側近からゴマソールに連絡を入れさせた。同席を求められた中西は英国まで急に出向く都合がつかない。それでもキャメロンは6月9日、工場に立ち寄り、メディアに向けてEU残留を訴えた。


 インフラ輸出に政治の後押しは欠かせない。日立の姿勢からは政権をも利用しようとするしたたかな思惑がうかがえる。キャメロンのために動き、狙い通りに信頼を得た日立は、英国戦略の勝ち組になるはずだった。

 だがゴマソールの思惑は外れる。前ロンドン市長ボリス・ジョンソン(52)をリーダーとする離脱派が勝利。保守党首選はジョンソンが出馬辞退し、内相のテリーザ・メイ(59)ら5人が名乗りを上げ混沌としてきた。

 日立はイタリア鉄道車両・信号大手を買収するなど欧州での成長に向けて英国だけでない布石は打ってきた。それでもEU離脱でデメリットを受ける企業と位置づけられ、株価は低迷している。


 多くの日本企業は戸惑いを隠せないでいる。6月27日、三菱重工業社長の宮永俊一(68)は日立や東芝、トヨタ自動車の役員とともに経済産業相の林幹雄(69)と面談した。会合が終わり、記者団に囲まれると一息に話した。「グローバル化の中で英国を伸ばそうと考えた矢先にこうなった。どう対応しなければならないか、考えている」


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 英中部サンダーランド工場で年間約50万台を生産する日産自動車。社長のカルロス・ゴーン(62)はかねて「離脱すれば英国への投資を見直す必要がある」とけん制してきた。生産の8割は欧州大陸を中心に輸出し、部品は大陸からも調達する。人やモノの移動コストが高まれば、英国を欧州の生産拠点と位置づける戦略に狂いが生じる。

 離脱決定後の6月28日にはナンバー2の西川広人(62)がベルギーのブリュッセルを訪問、EU幹部らと会った。先行き不安に身構えながらも情報収集に全力を傾ける。


 かつての英国は造船業や重工業が盛んで、自動車産業や鉄鋼業も立ち上げた。サッチャー政権下で金融などサービスに軸足を移したものの、製造業の技術基盤は残り、日本メーカーは輸出拠点として期待をかけてきた。域内2位の経済規模と歴史ある国に特有のインフラ更新需要も魅力と映る。EUから離脱したとき、その輝きがどれだけくすむか、日本企業は測りかねている。(敬称略)



 赤川省吾、多部田俊輔、佐藤理、原克彦、森本学、川合智之、黒沼勇史、中山修志、小滝麻理子、黄田和宏、竹内康雄が担当しました。


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